口腔外科では、むし歯や歯周病の治療を除き、顎口腔(歯を含む口全体及び、顎)領域全般の病気や外傷の治療を行っており、埋伏歯(歯肉に埋もれた歯)の抜歯やインプラントの埋入手術などの外科的処置だけでなく、顎関節症などの病気の診断や治療も行います。
ここでは、一般開業医で行われている口腔外科領域の病気や治療についてご紹介します。
顎関節症
顎関節症は、顎関節(耳の穴の前辺りにあります)や顎を動かす筋肉(咀嚼筋)など、顎関節周辺に何らかの異常が生じる病気です。
主な症状には、「口を開閉する時に音がする」「口が大きく開かない」「顎が痛む」などがあります。
症状の程度
自然に治る軽症の方もいれば、「顎が外れて口が閉まらなくなる」など、生活に支障が出る程に重症化する方もいます。
「硬いものを食べたら顎が痛くなったが、暫くしたら自然に治った」という軽症の方を含めると、日本人の2人に1人は何らかの顎のトラブルがあると言われています。
このように放っておいても自然に治ることも多く、必ず悪化するというものでもありませんが、「口を大きく開け閉めした時に痛みがある」状態が1週間以上続いているのであれば、歯科医院を受診した方が良いでしょう。
思い当たる症状をチェックしましょう。
- 口を大きく開けることができない。(開口障害)
- 食事の際など、口の開閉で顎関節に痛みがある。
- 口を開閉すると、耳の前辺りで「カクカク」などと音がする。(関節雑音)
- 口を開閉すると、顎関節に「カクン」と衝撃を感じる。
- 顎がだるく感じる。
悪化すると「口を開閉しなくても顎関節が痛む」「顎が外れる」などの症状が現れることがあります。
気になる症状などがある場合には、歯科医院でご相談ください。
顎関節症の原因
顎関節症の原因として、「多因子病因説」が世界的に認められています。
顎関節や咀嚼筋にかかる負担には様々な要因がありますが、それらの「要因が偶然に重なって負担が増し、その人の耐久力を超えた場合に症状が現れる」という考え方を「多因子病因説」と言います。
つまり、元々の耐久力の強い方は、要因が積み重なっても発症しにくいとも言えます。
顎関節症の要因
要因には、「顎関節や咀嚼筋の構造的弱さ(解剖要因)」「不良な噛み合わせ(咬合要因)」「打撲や転倒など(外傷要因)」「精神的緊張の持続(精神的要因)」に、「行動要因」と言われる「日常の些細な癖」などがあります。
「精神的要因」と「行動要因」
「日常の些細な癖」には「歯列接触癖(噛みしめる癖)」「頬杖」「食事の際の方側での噛み癖」「歯ぎしり」などに「パソコン作業」や「人間関係での緊張」など多くの癖があり、中には社会生活を送る上で避けられないものも少なくありません。
それぞれの要因全てを確認し、取り除くことは困難ですが、顎関節症の患者さんの8割が持っていると言われる「歯列接触癖」の解消を図ることで、顎関節症の症状が改善されることが確認されています。
「歯列接触癖」
「歯列接触癖」は「必要がない時にも(無意識に)常に上下の歯を噛み合わせている癖」であり、顎関節や咀嚼筋に持続的な負担がかかることから、顎関節症を発症しやすくなるのです。
顎関節症の治療
歯科医院での顎関節症の治療では、多くの場合、上記の「歯列接触癖」の解消を図ります。
「マウスピース(スプリント)」(歯列に被せる人工樹脂の装置)を作製し、就寝時に装着することで夜間の無意識の噛みこみから、顎関節や咀嚼筋への負担を軽減させます。
また、痛みが酷い場合には鎮痛剤の処方なども行われます。
これらの処置で効果が見られなければ、その他の要因を探し、取り除いていきます。
このように、顎関節症の治療では、さまざまな要因を考慮しながら、多角的な治療が行われます。
顎関節症の治療とセルフケア
また、顎関節症の治療では、患者さん自身のセルフケアも重要です。
セルフケアなしでの症状の完全消失は、あり得ないと言っても過言ではありません。
ご自身で自覚している「日常の癖」があれば、意識して取り除くようにしましょう。
セルフケアによる十分な自己管理が行えれば、治った後の再発予防にもなります。
顎関節症の原因と治療について、詳しくは歯科医師にご確認ください。
歯ぎしり
歯ぎしり(ブラキシズム)」は、上下の歯が非機能的な接触をしている状態を言います。
ブラキシズムには、上下の歯を横に擦り合わせる「グラインディング」(一般的によく言われている「歯ぎしり」)と、一ヶ所で噛みしめる「クレンチング」などがあります。
「上下歯列接触癖(噛みしめ)」もブラキシズムの一種と考えられています。
ブラキシズムの程度
このようなブラキシズムは、誰でも行っているものですが、問題はその程度(強さ、頻度、及び持続時間)です。
特に就寝中のブラキシズムは、無意識に非常に強い力で行われる場合があり、歯や顎関節などに障害を引き起こす場合があります。
ご自身に歯ぎしりの可能性がある場合には、歯科医院でご相談されることをお勧めします。
ブラキシズムによる障害
- 「歯の摩耗(すり減り)」「歯に亀裂が入る」「歯が欠ける」…亀裂や欠けた部分などから、むし歯になることがあります。また、噛み合わせを変化させてしまいます。
- 「顎骨の隆起」…強い力が加わり続けることで、歯周辺の顎骨が膨らんでくることがあります。
- 「顎関節症」…顎関節や咀嚼筋(顎周辺の筋肉)に負荷がかかり、痛みや違和感、疲労感などを引き起こします。
- 「歯周病」…歯肉や周辺組織にストレスがかかり、歯周病になりやすくなります。
- 「緊張型頭痛」…咀嚼筋など顎周辺の筋肉の緊張が続くことで、頭痛を引き起こします。
この他にも、「咬筋(顎のえらの部分)の肥大」「義歯のトラブル」などの、障害が現れます。
歯ぎしりの自己チェック
「睡眠時ブラキシズム」
睡眠中のブラキシズム(睡眠時ブラキシズム)は、無意識に行われていることもあり、自分では中々気付きにくいものです。
ご家族に指摘される以外に、「朝起きた時に顎がだるい。痛みがある」「歯がすり減っている」「強く噛みしめた時に咬筋が大きく膨らむ」などの症状があれば、ブラキシズムを行っている可能性があります。
「覚醒時ブラキシズム」
日中のブラキシズム(覚醒時ブラキシズム)は、主に「クレンチング(噛みしめ)」であることが多いです。
人間は、何もしていない安静時には、唇を閉じ、上下の歯の間は2㎜程度開いています。
もしも、上下の歯を接触させているようであれば、ブラキシズムの可能性があります。
気になる症状がある場合は、歯科医院にご相談ください。
歯ぎしりの原因
ブラキシズムの原因について、以前は「咬合異常(噛み合わせの異常)」が原因ではないかと考えられてきましたが、科学的根拠は実証されておらず、現在では因子の1つに過ぎないと考えられています。
この他にも、ブラキシズムは「ストレス」「性格」「遺伝」「飲酒」「喫煙」「特定の疾患(脳性麻痺などの中枢神経系の障害、睡眠呼吸障害など)」などの様々な因子によって引き起こされているのではないかと考えられています。
歯ぎしりの治療
ブラキシズムを引き起こす因子は個々で異なる為に、ブラキシズムの治療では様々な因子を考慮し、それらを可能な限り取り除いていく必要があります。
歯科医院では、ブラキシズムによる障害を防ぐ目的で、一般的にスプリント(歯列に被せる人工樹脂の装置)を用いた治療を行います。
就寝時にスプリントを使用することで、歯を睡眠時ブラキシズムから保護し、顎関節や咀嚼筋への負担を軽減することができます。
歯ぎしりの治療とセルフケア
また、患者さん自身による、「ストレス」「飲酒」「喫煙」などの要因を取り除くセルフケアを同時に行う必要があります。
日中の「覚醒時ブラキシズム」についてもストレスなどの様々な要因によって引き起こされていますが、睡眠時とは異なり、意識的に行われている場合もあります。
その様な場合には、自らが有害な行動をしている事を自覚させる「行動療法」が適応されます。
歯ぎしり(ブラキシズム)の治療について、詳しくは歯科医師にご相談ください。
親知らず(第三大臼歯)
「親知らず」(第三大臼歯)とは「智歯」とも呼ばれる、大臼歯(大人の奥歯)の中で最も後ろに位置する歯で、永久歯の中で最後に発育します。
永久歯は通常15歳前後で上下28本が生え揃いますが、「親知らず」が生えるのは10代後半から20代前半であり、親に知られずに生えることから「親知らず」、英語の"Wisdom tooth"に由来して("Wisdom"は知恵や賢さという意味)「智歯」と呼ばれるようになったと考えられています。
親知らずと個人差
一般的に、親知らずは上下左右に1本ずつの計4本ありますが、「全て生え揃う方」から、「必ずしも4本揃っていない方」、「先天的に親知らずのない方(先天性欠損)」まで個人差があり、親知らずの生える場所が不足している、あるいは生える方向が通常と異なる為に埋伏(歯肉に埋まっている状態)していたり、傾いてきちんと生えてこなかったりするケースもしばしば確認されます。
親知らずと人類の進化との関係
親知らずの埋伏や先天性欠損は、人類の進化の過程として、近年になって爆発的に増えた現象だと考えられてきましたが、古代からその傾向があったことが確認されており、弥生時代においても珍しくない現象であったようです。
親知らずの病気
生える場所や生える方向などの要因により、親知らずがきちんと生えなかった場合、歯肉に炎症(智歯周囲炎)を起こすことがあります。
「知歯周囲炎」
20歳前後の人に発生する頻度の高い疾患であり、炎症が周囲の組織や顎骨に広がると、頬が腫れたり、口の開閉に影響がでたりする場合もあります。
智歯周囲炎の治療では、抗菌薬(化膿止め)や消炎鎮痛薬(痛み止め)などを服用して炎症を鎮めて様子を見たり、歯に被った歯肉を切除したりする場合があります。
しかし、親知らずの生える方向に問題があるなど、どうしても炎症を繰り返す場合は、抜歯をすることになります。
親知らずのむし歯
また、親知らずは一番奥に生えており、歯肉が被さりがちであることなどから、手入れが十分に行き届かないことが多く、むし歯になりやすい歯です。
手入れが行き届かないことから、治療を行っても再発してしまうことも多く、そのような場合も抜歯をすることになります。
親知らずの利点
最終手段として抜歯されることの少なくない親知らずですが、特に問題がなければ抜歯する必要はありません。
そのような親知らずは、将来、ブリッジや義歯の支えとして利用できる為、残しておく方が良いことも多く、親知らずがあるということは、必ずしも悪いことばかりではありません。
親知らずの抜歯
親知らずが真っ直ぐに生えている場合は、通常の歯と同じように比較的簡単に抜くことができます。
しかし、横を向いて生えていたり、完全に埋伏していたり、歯根の形が複雑だったりする場合には、歯肉を切開したり、骨や歯を削ったりする必要があります。
親知らずの状態や、患者さんの持病などによっては、入院して全身麻酔下で行われる場合もあります。
抜歯後の注意点
抜歯後は、出血を抑え、傷口への感染を防止する為に、主治医の指示に従いましょう。
外科手術ですので、どうしても痛みを伴うことが少なくありません。
痛み止めなどの処方があれば、我慢せずに指示通りに服用しましょう。
- 抜いたその日は、入浴・飲酒・過激な運動は避けてください。
- 傷口を指や舌などで触らないでください。
- 必要以上にうがいをすると、出血が止まらなくなります。多量に出血する場合は、清潔なガーゼやティッシュペーパーなどを丸めて傷口に当て、20分程強く噛むとよいでしょう。
- 麻酔が切れて痛みが我慢できなくなった場合には、痛み止めを飲みましょう。
- 食事の際は、患部を刺激しないよう注意しなければいけません。刺激が強い飲食物は控える必要があります。
- 化膿止めなどを処方された場合は、指示通りに正しく服用しましょう。
- 抜歯後、1~2時間程度は、麻酔が効いて唇や舌が痺れている為、熱いものを飲んで火傷をしたり、唇や舌を噛んだりしないように注意しましょう。(個人差がありますが、麻酔が完全に切れるまでに半日程かかる場合もあります。)
- 患部を指や舌などで触ってはいけません。
詳しくは歯科医師にご確認ください。